今読みたい!野沢尚のオススメ7作品④『深紅』

 

深紅 (講談社文庫)

深紅 (講談社文庫)

 

 一昨日の日曜洋画劇場に関する、クイズです。

 

Q.鉄道員と書いて「ぽっぽや」と読む。では「旅館の従業員」は何て読む?

 

 

A.「旅館の従業員」(ハトヤ

 

こんばんは! はるとです。

 

さて、今回の野沢尚作品ので紹介するのは「深紅」Amazonにあるあらすじだと

高橋克彦氏激賞!これは奇跡的傑作である。
犯罪被害者の深き闇を描く衝撃のミステリー。吉川英治文学新人賞受賞作。
父と母、幼い2人の弟の遺体は顔を砕かれていた。秋葉家を襲った一家惨殺事件。修学旅行でひとり生き残った奏子は、癒しがたい傷を負ったまま大学生に成長する。父に恨みを抱きハンマーを振るった加害者にも同じ年の娘がいたことを知る。正体を隠し、奏子は彼女に会うが!?吉川英治文学新人賞受賞の衝撃作。

 

確かに「奇跡的傑作」だと思った。特に、冒頭の奏子が修学旅行先から

東京へ車で戻るシーン。

 

じりじりと破滅へと近づいていく様子が、「鮮明に」描かれています。

この「鮮明に」って何なのかというと、奏子の心の動きが1秒1秒

詳細に描かれているんですよ。

 

〈自分の家族の死を確認するために東京に向かう〉

 

これを「家族は無事だろうか無事でないだろか?不安だ」という

雑な描き方ではなく

 

 

奏子の

不安→恐怖→諦め→家族との情景→悲しみ

といった心の動きが、本当に1秒1秒、細かく描かれています。

 

よく小説などを評価するときに、安易に

「リアリティがある(ない)」って評することって

あるじゃないですか?

 

この東京に向かう車のシーンを読んで、これこそが

 

小説の言う「リアリティ」なんだと思いました。

 

もちろん、冒頭のシーンだけを言っているけれど、その後の

上申書の展開なども「野沢尚の本当に上手な展開(※)」で

その後も引き込まれます。

 

※ 「ある男」はA(良い人・嘘つき・信頼できる)である。

ただ、次の展開において違う人物の視点で見ると「ある男」は

B(悪い人・正直者・裏切り者)である。どっちが本当の彼

なのだろうか?

 

最後に、中盤以降の奏子と未歩(加害者の娘)が出会ってからのシーンも

心の動きの描き方に感心しました。

 

奏子は未歩に対して、心の中で「お前」「この女」と呼びながら

蔑んだ目で未歩を見ている。

 

ただ、一方奏子の気づかないところで、未歩に惹かれていく

(奏子の”気づかないところ”でというのが本当に上手に描かれている)。

 

その描き方は、本当に高度。奏子は、未歩を蔑んでいるのが

心の声として直接的に描かれている。

一方、奏子が未歩と見ている風景は象徴的に(暗示的に)好意的な

ものに、しだいに変化している。

 

奏子は未歩に対して、少しずつ惹かれている。ただ、未歩のある告白に

よって、奏子は未歩への復讐を最終的に決意する。

 

その復讐の先には、何が待っているのか?ここでも、奏子の未歩に

対しての、高度な心の描き方をぜひ読んで欲しいと思う。

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